佐渡ヶ島旅行記 3
宿根木、新潟県佐渡市最南端に位置する町。佐渡金山繁栄期の江戸寛文期（1661～1678）に廻船業の集落として発展し、明治中期には役目を終えた。船大工が手がけた独自の建造物が並ぶ。
その町並みは火災などの消失もなく、地元住民たちの努力により保全され、いまでは重要伝統的建造物群保存地区とされている。
知名度はそれほど高くない。僕は佐渡を調べていて偶然知った。
そこへ僕と友人の2人はいた。電動アシスト自転車で宿根木の狭い路地を通る。
日没前の17時30分、観光客も少なくなった時間に宿根木の空気を吸った。
僕にとっては、佐渡で一番印象深い場所だ。世界にひとつしかない風景だと強く感じた。
宿根木は小さな路地と同じ幅の小川が流れている。水は澄んでいた。
目の前で住人が小川から水をすくって水まきをしていた。
路地でオニヤンマが飛んでいた。友人はオニヤンマを写真に収めようと躍起になってカメラを構える。しかし、オニヤンマが止まる高さのものがない。
指を立ててみたけれど、オニヤンマは賢いのか止まることはなかった。結局、カメラにその姿を移すことはできず、僕らの記憶のなかだけのものとなった。
そろそろ夕食の時間だ。小木へ帰らないといけない。
水まきが終わった宿根木の民家。奥には神社がみえる。
佐渡最南端の道を自転車で東へ、小木への帰路に着いた。
佐渡の名産はイカだそうだ。自転車をこぎながら、うまいイカが食べれたらと何度も考えていた。
帰り道に友人が小木の商店でビールを買っていた。看板猫がいて、土間構えの昔ながらのお店だ。僕はお酒が飲めないので眺めていた。
小木の商店街はまるで昭和初期のようなたたずまいである。佐渡ヶ島という離島ならではの良さがほんのりと感じられる。
19時前、旅館へ着いた。相変わらずご主人は挙動不審である。
料理はすでに1階の別室に用意されていた。イカフライが見えた。僕は「イカですか」と思わず声に出したが、ご主人は押し黙り、奥へと消えていった。
（やっぱり挙動不審だ）と僕は思った。
このイカ、僕が楽しみにしていた佐渡のイカは、不味くて食えたものではなかった。スーパーの惣菜より不味い。天ぷらかフライか分からないけれど、しなしなであった。
友人は、「どこかで買ってきたものだろう」と苦い顔をして語っていた。
いままで食ったイカフライのなかで一番不味い。つくってから時間が経っていて、油の質が悪いと感じるフライであった。
料理はどハズレだった。
気まずい空気が流れる。旅館を選んだのは僕なのだ。その手前、料理を残すことはできなかった。幸いにもイカのフライ（と、その仲間）が一番不味く、他のものは食べられる味だった。
が、しかし量が多い。
刺し身に鍋、煮物、揚げ物（ゲロマズ）ごはん、味噌汁、漬物と焦点が合わない量だった。刺し身はおいしくて友人のフォローのネタになっていた。「ブリはうまい」と真顔で何度もいっていたのが印象的である。友人はフライには手を付けることはなかった。
桶に入ったきれいな水は一滴の汚水で、きたない水になる。
こういった例えが当てはまる料理だった。
フライが不味すぎる。
友人は遠慮なく残した。僕はなんとか詰め込んだカタチで戦いは終わった。
その後、僕らは2階にある部屋に戻った。晩御飯を食べているうちに布団が敷かれていた。
僕らはご主人に聞こえないように「あれはない」「ないない」という風に慰め合っていた。
宿を選んだ僕は残念な気持ちでいっぱいであったけれど、一番辛いのは友人だった。
友人は旅の途中の長野で食べた昼食の蕎麦でさえ、おいしいと思っていなかった。
となれば、旅行に来てから何もおいしいものを食べていない。さらに早朝の出発のために1時間しか眠っていなかった。
友人のテンションが消えかけていた。
布団にぶっ倒れて動かない。
ピクリと動いた。
「このままでは眠ってしまう。風呂に入るよ」と友人は疲れきった声でいった。僕はうなずいた。
神様、お風呂はきれいでありますように。と、僕は祈りを捧げていた。
